ある国の暦

片山廣子という方が書いた『灯火節』に、『ケルトの古い古い言い伝えだったかもしれないが、こんな暦が載っていた』と紹介されています。

ネットでどれほど探しても、この灯火節にしかない暦です。 ケルトの文学に造詣が深かった彼女と。 ケルトの古い伝説を伝えるところでしか、受け継いでいない暦なのかもしれません。

作者は旧仮名遣いの世界に生きていた方。 幸いにも、私は旧仮名遣いが苦にならない育ちでしたので、敢えてこちらで読んでみましたが。 (もし可能であるならば、やはり、その時代の言葉で読むのが良いのです) 慣れないと読みにくいかもしれませんね。

現代語に訳すと 『 ある国のこよみ

はじめに生まれたのは歓びの霊である。 この新しい年をよろこべ!!

1月     霊はまだ目が覚めぬ 2月     虹を織る 3月     雨の中に微笑する 4月     白と緑の衣を着る 5月     世界の青春 6月     荘厳 7月     2つの世界にいる 8月     色彩 9月     美を夢見る 10月   溜息する 11月   おとろえる 12月   眠る 』

何と美しい暦!! 後に続くのは、この暦の色彩豊かな季節感と、我が国の和歌の対比のお話。

彼女は、この時代の才女の1人でした。 外交官の娘として、東洋英和女学院で学び、上流社会の奥方となり。 そして、戦争で多くを失った。

女が仕事なんて、トンデモナイ!なんて時代に生きながら、こっそり翻訳者・研究者であった方でもあります。 その教養の豊かさは瞠目するばかり。

やはり、戦争で日本は多くの美しいものを喪ったのだと思うのです。

まぁ、その時代のままでしたら、私などは絶対に嫁の貰い手がない、言語道断なお転婆であったことは疑う余地がありません(笑) そう思うと、戦争以後の現代に生きていて良かった訳だよねと、ほろ苦く思うのですが(笑)

この暦。 『2月    虹を織る』という言葉が好きな方が多いようで、ネットではよく引用されています。

私も好きで。 読むたびに、冬の授業中を思い出します。 ダルマストーブのある教室。 北山時雨が降る、午後。 とりわけ2月は、よく北の空に虹を見ました。 そして、遠くに聞こえる、蒸気機関車の汽笛。 今思えば、あれは梅小路の機関車館で走らせていた機関車の汽笛だったんですね。 誰も口にしないから、確認したことがありませんでした(笑)

今月は1月。 自然の世界は静か。 まだ、霊は眠っているようです。